【ICO -霧の城-】愛されていたニエの子

ヨルダと手を繋いでいないとめちゃくちゃ不安だったのを思い出した。

by Pixabay
この人の手を離さない

遂に読んだか、やっと読んだかと昔からの知人友人には言われそうですが、宮部みゆきさんの『ICO -霧の城-』を読みました。2025年になってようやく。
ICOをプレイした当時からノベライズ作品があるということは知っていたのですが、先延ばしにしたまま今に至っておりました。

かなり遅くはなりましたが、本当に読んでよかった。何故読んでいなかったのか逆に。……いえ、いろんな意味でぐちゃぐちゃになるだろうなって思ってたから怖くてという理由以外にはないんですけど。

ということで、読書感想文のお時間です。

ICO -霧の城-のご紹介

誰しも、ゲームと共に生きてきたなら単純に『楽しんだ』『たくさん遊んだ』という以上の影響を受けたゲームというのが1つ2つあると思います。
わたしにとっては、『ICO』がそのひとつであります。

『ICO -霧の城-』は、プレイステーション2用として発売されたその『ICO』というゲームのノベライズ作品です。

『ICO-霧の城-』(宮部 みゆき)|講談社

ICO自体とても好きなゲーム。めちゃくちゃ詳しいわけでも、めちゃくちゃやり込んだわけでもないんですけど、非常に心に残っているゲームです。ビームサーベルは取りました。

鳩を見ているヨルダ、足場から足場へのジャンプを嫌がるヨルダ、もじもじしてなかなか箱に乗ってくれないヨルダ……言葉の通じないヨルダのいろんな仕草や感情表現を見ながら、なんとか一緒に逃げ出そうと手を繋いで謎の城の中を駆け回った思い出。懐かしい。

ボロ泣きでエンディングを見てからすぐさま2周目に突入し、また2周目のラストで大号泣したのを覚えています。泣きすぎて頭痛かった。

簡単に導入部分の説明をしておきますと、ICOは『ニエ(贄)』と呼ばれる角の生えた少年が、言葉の通じない謎の少女と、これまた謎に包まれた古城から脱出するゲームです。恒常的に流れるBGMもなく、たくさんセリフがあるわけでもなく、ちょっと洋ゲーのような雰囲気のあるゲーム。

謎の少女ヨルダは高い段差は登れないし、狭い足場は嫌がるし、垂れた鎖を登っていくこともできないので、プレイヤーはニエのイコを操作して、彼女が通れる道を用意してあげないといけません。そして放っておくとふらふら歩き回る彼女の手をとって、一緒に城からの脱出を目指すわけです。

ヨルダとは言葉でのやりとりができませんし、何故か黒いモヤモヤしたモンスターのようなものには襲われるし、とにかくわからないことだらけで進まなければいけないのですが、ひとつわかっているのは、ヨルダを守らなければいけないということ。
手を引いてモンスターから逃げ、敵を追い払い、ときには一緒に座って休んで、その中で言葉の通じない(なんなら正体もわからない)ヨルダとの間に絆が生まれて……まあ最後は号泣ですよね。未プレイの方には是非遊んでいただきたい作品です。現在ではプレイ環境がだいぶ限られてしまっているようですが……。

ディスク版+対応CS機以外でICOをプレイしようとなると、PlayStationPlus加入者特典のゲームカタログ、もしくはクラシックスカタログでプレイできるとの情報を見かけたのですが、公式ページのカタログ対象ゲーム一覧からタイトルを探せず……。果たして本当にプレイできるのか把握できておりません(未加入者)。
すっかりPCでしかゲームしなくなったので、ICOもPCでできるようになったら嬉しいですねぇ。

『ICO -霧の城-』には、ノベライズのオリジナル要素が入っているよということは事前に知人から聞いていて知っていたので、そこがプレイ済みのじぶんにはどう影響するだろうかと気がかりでしたが、わたしはもう、ありがとうございますとしか言いようもなく……ありがとうございます……成仏しそう。

宮部みゆきさんのICOの世界

感想を書いていこうとは思うんですが、多分に感情過多になると思うのでいつも以上に支離滅裂だと思われます。そしてとにかく『良かった!』という話をしたいだけなので、内容紹介については前述した以上のものはありません。

愛されていたニエ

ゲームの導入部であった、ニエが城に連れられてくるシーンよりも前の情景、とってもよかった。ゲームスタート地点、つまりプレイヤーだったわたしが知っているよりも前の場面についてかなり丁寧に描かれていてそれがたまりませんでした。

特に、ニエであるイコが愛されていたという前提が、めちゃくちゃ嬉しくって……。
ゲーム内では『角がある子が生まれたらその子はニエ』『時期がきたら城に捧げられる』という情報しかなかったので、言い方はよくないですが忌み子のような扱いの子供だったのかなと思っていたんですよね。
でもヨルダという赤の他人を助けながら頑張るイコの姿と、その思い込みがどうしても上手く重ならなくて、結局、「イコはこんな扱いを受けながらも真っ直ぐ育っていい子なんだ、それなのに村の奴らめ……イコ可哀想」という気持ちでプレイしていたんですよね。

でも、イコは愛されていたよという話をしてもらえてて、なんかもうここで一回成仏しました。

ずーっとイコが可哀想すぎるって思っていたのが報われた気持ちになって、序盤で(別に哀しいシーンではないのに)ズタボロに泣いてました。そこでやっと、あ、わたしはイコが愛されていてほしかったんだなと理解しましたね。
イコがニエに捧げられることを悲しむ人がいてほしいと思っていたんだなと。

オネ様本当にありがとう。

霧の城の過去

第三章からの霧の城の過去の情景は、これがまたたまらん雰囲気でしてね。
ゲーム本編では美しいながらも無人の古城だったけど、過去の霧の城には人がいて、豊かさがあって、でもねっとりとした恐怖が横たわっている感じがたまらなく好みでした。このお城探索したい。

女王は結界の中に城を置き、人々を操り、悪戯に意識を残した人々も恐怖と欲とで支配し続けていたわけだけど、していることとしては自らが魔神に捧げる生贄たちを大切に保護していたわけですよね。これはイコがトクサの村、ひいては神聖帝国が繰り返してきたことと同じことなんですよね。本当に、女王様の言うとおり。人間ってやつは……。

女王、良い悪役だったなと思います。一貫して目的の為に行動していて、強かった。
唯一行動理由がわからなかったのはヨルダを産んだことだったけど、人の子の姿をしていた弊害で、なにか寂しさを感じてしまったり仲間が欲しいと思ったりしてのことだったんでしょうか。或いは本当に次代の女王を用意しようと思ったのか?

夫のことは憎んでいたようだったし呪いにまで利用していたけど、それよりはヨルダの扱いは良いように見えたし。まあ父親の遺体を辱めて呪いの礎として置いていた檻の中に(ただ夢を見ているような状態だったとはいえ)置いておくくらいなので、まともな扱いをしていたわけではありませんけど。恐ろしい女王。でも悪役としては好感を持てます。
悪役というか……なんと表現したらいいんでしょう。主人公の敵対勢力ではあるけど、そちら側としてプライドがあって、己の目的のために行動している人物というんでしょうか。主人公側、人間側から見ると悪役ですけど、物語の中のそういう人物にはある程度好意的ですわたくし。

イコと同様に、ヨルダも愛されていた描写が散りばめられていて、こちらも大変に良かった。ゲーム内では歪んだ女王の愛(と呼ぶのか執着と呼ぶのか)ばかりが目についたけど、ヨルダが愛し、ヨルダを愛した父親の存在というのは大変に慰められましたね。

救い

正直なところ、第一章で読み始めたのを後悔しました。そう、馬の矢風が石にされてしまったところ。もう本当にここが重くて……ここで一旦本を寝かせたんですけど……でも、なんとか頑張ろうと気力を振り絞って読み進めて、本当に良かったです。ネタバレですけど、矢風、助かります。ありがとう。本当にありがとう。

石にされた命はその場で命を奪われるのではなく、『そのまま石として生きる』というのが正しいようですね。石にされてから長い年月が経っていて救われない命もたくさんありましたが、とにかく矢風とトトだけでも救われたのはよかった。やっぱ、救いがなくちゃあやってられんよ……。

イコたちの生きている時間はやはり”今”だし、過去のものまで救いなさいというのは酷。時間が流れている以上は仕方のない部分なのかなと思います。
ヨルダが停滞した時間の中に囚われていて、でもイコの手で救い出されたことで、今度は流れる時間の中に身を置いて生きていくことになるわけで。これまでは知らずに済んだ辛いことにも触れていくようになるんですよね。それもまた、ある種の残酷。ヨルダは自分の人生を取り戻したけれど、それによって生きていく辛さのようなものも享受しなければならない。

歪んではいたけれどまどろんでいるだけでよかった親の庇護の下から旅立つ子の姿、というふうに捉えることもできるんですかね。親の庇護なんて言葉じゃカバーしきれない特大マイティーガードでしたけれども、霧の城は。
これからのヨルダの生きる道が、イコと間近く、明るいものであるといいなと思います。

装丁

内容からは逸れるんですが、この『ICO -霧の城-』、装丁も素晴らしい。
ゲームパッケージのままの装丁なんですよね。手に取るだけでテンションが上がる。

そして表紙を開くと遊び紙が入っていて、これがね……また良いんです……わたしもICOの同人誌出すならこの遊び紙入れてえ~~~!!!!! という。伝わりますかね(伝わりませんよね)。

これは是非現物を手に取って、見ていただきたい。
(ちなみにわたしが読んだのは2004年発行版のもの。講談社ノベルス版、文庫版ではこの装丁ではないと思われますのでご注意ください)

ICO生の締めくくり、これで悔いなし

そもそもこの『ICO -霧の城-』も連載は2002年~2003年、初版は2004年ということで20年も前の作品なわけで、今後ICOとしての新規供給はおそらくないでしょう。
しかし、これにてわたしの人生におけるICOの物語が締めくくられることになんの悔いもない。今はそんな気持ちです。最後に特大のICO愛をいただけた、という感謝の気持ち。

全体を通して、救いの物語だなと感じた本でした。
イコもヨルダも愛されていて、大切に思ってくれる人がいたこと。
過去救われなかった人もいたけど、”今”、彼らができる限りの力で救えたこともあったということ。
そして何より、ICOというゲームをプレイした自分自身が救われるような気分でした。

ICOは面白いゲーム。そしてそれを題材に書かれた『ICO -霧の城-』という物語もまた、最高でした。ありがとうございました。

もう本当にありがとうございましたって言葉しか出てこないです。本当にありがとう……ICOプレイヤーわたしが成仏しました……ありがとう……ありがとう……。

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にと
長年DQ3で生きてきた人間です。恒常ゲーは現在LoL(主戦場は橋)。好きなジャンルはRPGで、ゲーム以外ならうさぎと手帳が好き。 ごみ捨てに行くだけで筋肉痛になる、深刻な運動不足。