知ってるようで知らない、タコの本を読みました。

馴染みはあるけど、詳しくは知らない、タコ

馴染みはあるけど、詳しくは知らない、タコ
タコは往々にしてゲーム内で悪役を担うことが多いと思います。わたしが初めて悪役のタコに遭遇したのは、恐らくファミコンのドラえもん。海底ステージにとんでもないサイズのタコがいて、倒し方もわからない子供時代、何度もドラえもんをぐっちゃぐちゃにされた思い出があります。足先を誘って攻撃ボタン連打で勝てるらしい。マジか。
海賊の物語なんかでも、よく見た目がタコ(或いは半分タコ、半分人間)の悪役を見ます。何故かは知りませんが、ヨーロッパの一部では悪魔の魚なんて呼ばれていた経歴の持ち主。ヒトと違って関節も見当たらず足はぐにゃぐにゃ、頭はやたら大きいし、どこを見ているんだかわからない目がギョロッと飛び出している……そんな外見から不気味がられた結果のことなんでしょうか。
タイトルからしてそのものずばりですが、今回の読書感想文は、そんなタコについて研究を続けてきた方の著書です。当然ですが、ずーっとタコの話をしています。
めちゃくちゃ面白かったので、是非読んでいただきたい一冊。
タコの精神生活 知られざる心と生態
まずは本のご紹介から。

『タコの精神生活 知られざる心と生態』
Many Things Under a Rock The Mysteries of Octopuses
デイヴィッド・シール 著 木高恵子 訳
ご覧のとおり、タコの本であります。
自分の家を掃除するタコ、仲間を食べるタコ、仲間を守るタコ、人間に意地悪するタコ。たくさんのタコたち。
著者はタコたちを観察し、疑問を抱き、想像し、また観察し続けます。
こちら出版社の公式ページからは、著者の撮影したタコが夢を見ているのではないかと思われる様子を記録した動画へのリンクなどもあります。是非。
タコという生物
あまり食用が一般的ではない時代もあったアメリカと違い、日本ではタコって広く知られる生きものです。でも食用素材の名前としての『タコ』と生物としての『タコ』の生態とでは、知られる広さ深さ共にかなり大きな違いがあるのではないでしょうか。
タコの基本情報
タコは頭足類という、大きくは軟体動物に属するグループの生物。仲間にはイカ、アンモナイト、オウムガイなんかがいます。詳しくはいろいろあるのでしょうが、乱暴に言ってしまえば、『目がついた頭から直接足がたくさん生えている』ように見える生きものたちのグループにいます。
正しい表現や詳しい分類については図鑑なんかを読みましょう。楽しいぞ。
『頭から直接足が生えている』ように見える、の言葉通りタコは足先から見ると、足、頭(目のついているあたり)(ここに脳がある)、そして目の上にみえるぽこんと膨らんだ場所は胴体となります。
タコを捌く機会ってあまりないですが、同様の構造をしているイカで考えれば確かに、ここに内臓が詰まってますよね。頭足類という命名がめちゃくちゃしっくりくる生物のグループなのです。
実に複雑なタコの世界
『タコの精神生活』を読む前からタコについて知っていたことといえば、これらに加えて、
- 卵生で、メスは卵の孵化までかいがいしく世話をする
- 様々な見た目に擬態できる
- スミを吐く
このくらい。
あとはタコの血というのを見たことがなかったので、何故見ることがないのかと気になっていた程度のものでした。
ですが、実際には実にたくさんの「え、タコってそうなの?」を味わうことができました。
勿論詳しくは本書を読んでいただきたいのですが、例えば、タコの足は自律していること。あとはタコの目は色を識別しないこと。あんなに色を自在に、しかも瞬時に変えるのに、ですよ。どうなってんの(勿論科学的に判明している部分については本文内で説明があります)。
読んでいただければわかっていただけると思うのですが、本当に、タコって、全身が脳じゃん! という感想。本当に。すごい興奮しました。
我々ヒトとは大きく違う生態に、つい、「不思議!」と言ってしまいたくなるところですが(まあ言ってるんですけど全然)、これらはタコにとって合理的に取捨選択して進化してきた、とるべき生態だったわけですよね。
彼らにとっては当然の結果なのでしょう。
面白い。いきもの、面白い。
著者の姿勢
タコの生態そのものも素晴らしく興味深いものでしたが、何より彼らを観察し、分析し、疑問を抱いて更なる研究をする著者の姿勢もまた、読んでいて素晴らしいものでした。なんならここがなければこの本をここまで面白いと思わなかったかもしれない。
25年以上タコを研究している著者は、当然タコが好きです(断定)。
生活に大きく支障がないという前提があったとしてもタコの福祉という観点から傷つけるのを心苦しく思い、タコに安全に過ごして欲しいと願い、今目の前にいるこのタコはなにを考えているんだろう……とタコの気持ちに思いを馳せる人物です。タコが好きに違いない。
でも、本書の視点として、あくまでも観察者の立場から揺るがないのです。
タコは魅力的だ。タコが好きだ。
しかし、観察から得た情報に感情を混ぜ、杜撰に処理することを良しとはしない。
著者のそのような姿勢に好感が持てるし、生物学の書としての信頼感がある。
タコは賢いので、複雑な精神生活を持っていると反射的に考える人もいる。しかし、それを科学的に擁護するのは別のことであり、その考え方に夢中になって心を奪われるというのはさらに別のことである。
デイヴィッド・シール『タコの精神生活 知られざる心と生態』
訳者の木高恵子さんもあとがきで触れていらっしゃいますが、この記述がこの本の肝の部分でもあると思いました。この姿勢が崩れない、ただのタコ礼賛にはならない部分が面白い。淡々とタコを観察し、調べ、情報を集め、判明させる。
その過程に同席するような、或いは著者の記録映画を見ているような。タコの世界の端っこを覗かせてもらう、リアルな生物学のシーンが味わえる楽しさがありました。
まだまだわからない、タコ
リアルさで言うならば、25年タコを研究した大学教授の著書でも、まだまだタコのこと全部はわからない、疑問もたくさん残ったままという部分も、かなりリアルではないでしょうか。
そう、タコはまだたくさんの謎に包まれているのです。
ぐーすか眠りながら夢を見ているような様子は観察できるけど、本当に夢を見ていたのかはわからない。何故ならタコは喋らないから。
ご近所さんのタコと仲良くやっていて、時には外敵から守る様子が見られても、果たして本当にご近所さんに親しみを感じていた結果の行動なのかはわからない。何故ならタコは喋らないから。
結局人間以外の動物は、喋らないから本当のところがわからない。
でも、わからないからといってその疑問の否定にはならない。ここが生きものの面白いところ。たまんないですねぇ……
正直タコって(殆ど食材としてですが)身近な存在だし、そこまで謎が残っているとも思っていなかったんですよね。でも観察者の目で見て「タコのこういうところって、どうなの?」の疑問は多くがまだ謎のまま。こんなに面白い生物が、こんなに身近(食材としてですけど)にいたのかという驚きがありました。
タコ、おもろい。本当に。
単純な人間なのでこの本を読んですぐさま水族館にタコを見に行きたくなりましたし、久しぶりに海洋生物の図鑑なんかも読みたくなりました。
タコに特化した内容ではありますが、生きものの観察とは、そもそも観察とは、という視点から読んでも面白い本だと思います。
こちらも楽しい
幕間の一言
装丁も含め、章の合間にある一言も、ちょっと「おっ」と思わせる、良い本でした。
この辺は著者の仕掛けなのか編集の方のものなのか……出版物とその製作過程に疎いものでわかりませんが。
良い本だなぁと思います、本当に。
最後尾の原注まで解説びっしりで楽しいですよ。
可愛いタコのイラスト
内容とは離れますが、各所に配置されているタコのイラスト。こちらにも注目していただきたい。
著者の娘さんが描かれたイラストなのですが、どれも非常に良い。淡々とした文章の中に現れる愛嬌あるタコの姿ににっこりしたのは一度や二度ではありませんでした。
イラストをこちらに載せるのは当然憚られますので、是非本書を手に取って見ていただきたい。めちゃくちゃ愛のあるイラストです。
挿絵を担当されたのは、著者の娘さん。
娘さんは検体採集や飼育を通して長くタコに親しまれていたとのことで、本当に生き生きとしていて、可愛くて、でもリアルなタコがたくさん楽しめます。
さいごに
書店店頭で見かけてグッと引き込まれた本でしたが、なんとも、久々に己の嗅覚を褒めてあげたい気持ちになる良い本でした。とっても楽しかった。
ここを起点にタコや、他の海洋生物の本も読んでみたくなるところが、またたまりません。
是非お手にとってみてください。
そして読書感想文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
またなにか読んで記録に残していきたいと思います。そのときはどうぞよしなに。
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